安倍政権・改憲とのたたかい(要旨)

(2015年04月14日)

  斉藤貴男(ジャーナリスト)さん 第24回全国大会の記念講演
   24回大会は、『戦争のできる国へ─安倍政権の正体』などの著書がある斉藤貴男さんから記念講演を受けました。大変説得力のあるご講演でしたが、紙面の都合上、編集部の責任で主旨 第24回大会で講演する斉藤貴男さん を掲載します。

    安倍政権が憲法の改悪を目指して準備を進めています。すでに昨年7月に集団的自衛権の行使容認が閣議決定されました。この路線に沿って自衛隊法や周辺事態法も改訂されます。国家安全保障基本法案も用意されています。これらが整備されていくと社会はどうなっていくのでしょうか。 
なぜ改憲を目指すのか
    沖縄では辺野古に新基地が作られようとしています。それに対して昨年11月に当選した翁長知事が差し止めを要請した。にもかかわらず防衛省が無効を主張し、農林水産省がそれを認め、埋め立て工事の継続を指示しました。沖縄県民の民意は、安倍政権によって完全に無視されようとしています。
    今国会では労働者派遣法のさらなる改悪がもくろまれています。戦時体制が作られつつある中で階層間格差が非常に大きい雇用制度が用意されようとしています。「平和」とか「平等」の建前がつぶされれば暗黒の社会になってしまうのではないでしょうか。
    岸信介の孫であり名門の一族という安倍晋三のキャラクターによって日本の政治は動かされている、という解説がありますが、個人のキャラクターだけで一国の政治を説明するのは不十分です。もう一つは経済的に没落したアメリカはこれまでのように世界各地に米軍を派遣できなくなったので自衛隊が補完する、という対米従属論です。これも、そういう側面は確かにありますが、それだけでは不十分です。
    一見すると矛盾する「大日本帝国の復活」と「対米従属」をどう理解すればよいのか。できるだけアメリカの戦争に参戦することで、靖国神社公式参拝をアメリカに認めさせるような実績を作りたい。という構造になっているのではないか、と私は思います。
インフラ・システムの輸出
    しかし、政治的問題だけではなく、経済的問題も見なければ戦争する理由は分かりません。アベノミクスー金融政策、財政、成長戦略ーのうち、先ほどの雇用問題は成長戦略に入ります。人件費を安くすることで企業の利益を増やして経済を成長させるという理屈です。もう一つの成長戦略にインフラ・システム輸出があります。道路、鉄道、橋、空港、港、発電所、ガス、上下水道などの社会資本をシステムとして海外に輸出する。計画の策定から実際の施工、資材の調達、完成後の運営、メンテナンスに至るまでを輸出する国策です。
    この背景には少子高齢化があります。1億3千万人の人口が減少して1億人を切っていきます。内需が減る分を外需の拡大で補うためには、車や電気製品の輸出だけでは追いつかない。だからインフラ・システムという大がかりな輸出で日本に本社がある企業の成長をはかる、という国策です。
    この国策を民主党政権から引き継いだ安倍政権は、資源権益の確保と在外邦人の安全確保という二つ要素を付け加えました。インフラ・システムを輸出する相手国から優先的に地下資源を回してもらおう、ということです。しかし、地下資源が豊富な国は、それゆえに往々にして内戦状態にあることが多い。地下資源のある地域住民と外国企業に開発を許可した政府との間にしばしば争いがおこっている。そこへ日本企業が入っていくとどうなるのか。ODAも使って日本政府がバックアップする日本企業が、途上国の政府から多額の費用を受け取るのだから政府と対立する地域住民が経済侵略と受け取る場合もありえます。
改憲は格差・差別と一体の構造
    2013年1月にはアルジェリアで操業していたイギリスの天然ガスプラントが武装グループに襲撃され、労働者40人の中には日本人も10人含まれていました。
    そのとき現防衛大臣の中谷元にインタビューしました。中谷は「アルジェリアは国軍が戦闘したが、今回の法改正で、自衛隊は車両を出して日本人の救出に当たれるようになった。次のテーマは、どこまで武器を使えるようにするかだ」と言いました。海外派兵を禁止した憲法とは矛盾する。この矛盾を解消しよういうのが改憲の狙いの一つです。
    経済成長のためにインフラ・システム輸出のような軍事力のバック・アップなしにはできない帝国主義的政策をとっていくためには、いつでも戦争ができる体制が必要になる。こういう流れになっている。安倍首相の主義、対米従属の姿勢だけでなく新しい帝国主義的な将来ビジョンがあって今の改憲に向けた流れがあるのです。
戦争の人件費
    このような構造が格差や差別の問題と深く結びついています。アメリカには徴兵制度が今でもあります。選択的徴兵制では、18歳になると全員が徴兵候補として登録されますが、実際に誰が出征するかは地域の有力者が集まった会議で決められます。ベトナム戦争の時にはそれが問題になった。出征させられるのは黒人と貧しい白人ばかりて有力者とのコネがあったり裕福な家庭の子弟は徴兵されない、と。湾岸戦争いこうは、徴兵されて出征した兵士はいません。志願兵だけです。どうしてか。あまりにも貧富の差が激しいので兵士になって戦場で手柄を立てないと一生どうにもならないからです。
    日本でも自衛隊の中には貧しい家庭の子弟がたくさんいます。格差が広がっていけば、この傾向はより強まっていくと考えられます。 元東大教授で現在は国際大学の学長で日本外交史が専門の北岡伸一が2004年に『中央公論』で次のような趣旨の発言をした。「アメリカの強みは人件費の安さです。もし自衛隊員が戦死したら1億円は下らない。ヨーロッパもそうだ。しかしアメリカは100万円以下ですむ。だからアメリカは強いんだ」と。このような現状にある格差社会アメリカをうらやましがるような人物が集団的自衛権の行使容認を政府に諮問したのです。
政権批判を自粛するマスコミ
    人の痛みを分かろうとしない指導者層を追求しないマスコミの体たらくはご存じの通りです。これにも経済的な背景があります。日本新聞協会は、消費増税に際して軽減税率の適用を政府に要望しました。権力のチェック機構でなければならないはずの新聞社が、権力におねだりしてしまったのです。消費増税は2017年4月まで延期されましたが、同時に何に軽減税率を適用するかの決定も延期されました。それまで新聞は政権批判をしばられてしまった、ということです。まさに自殺行為です。
    戦争とか憲法となるとどうしても大上段な議論になってしまいがちですが、格差とか差別の問題は身近な大問題です。ですから皆さんのような運動が果たす役割は計り知れません。そのことを最後に申し上げて私の話を終わります。どうもありがとうございました。
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