長野における実態調査の報告

(2012年05月16日)

 

少数点在、しかも広大な地域での調査を行う

生活実態調査を約1年半かけて、長野県下全域に入ってきました。 長野県は典型的な少数点在部落です。県の面積は、岩手、福島に次いで全国第3位の広さをもっています。北から南の端までの距離は、長野から東京まで行くくらいかかります。このようにかなり広い地域を、私たち調査団は、本部派、未組織の部落900件近い軒数をまわり、171人の回答を得てきました(今年の2月20日現在)。まだ全部はまわり切れていません。全部をまわるには数年かかると思います。

私たちが中間集約した分析結果をもって回答していただいた人たちを訪問すると、長野市の部落の教師から「こんな取り組みは解同では絶対にできない。まわった地区、件数がすごい! 大変な労力だ。本当に頭が下がる思いがするし、あなた方に敬意を表する」と言われました。

こうした感想は、あちこちで聞かれました。長野の部落をよく知る人は、まずこの実態調査に挑戦したことに驚き、訪問した軒数、回答数にびっくりします。

少数点在で、土地の改良で部落そのものが様変わりし、公共事業でどんどん部落が移転させられ、そこに部落があるはずなのになくて、探すところから始めるという、まさにまわること自体が困難な状況の中、171人の回答を引き出したことの大きさを、私たちは自画自賛、自己満足ではなく、大衆感覚で確認できます。

運動離れが進んでいる、一方で差別は根強くある

そして、この171人の回答者は、部落解放運動の行く末を憂い、何とかしなければと思っている人たちです。いろんな地域をまわってきましたが、解同本部派の組織と運動は、ほとんどなくなってしまいました。実際に、ある村で差別事件が起きていて、たち上がらなければならない時に、そこの村の支部長が脱会し、支部が解散してしまった状況がありました。つい最近でも、まだかろうじて運動がつづいている豊野の村でも、集団で脱会するということが起きています。

それに加え、借金で家を取られ、村から出ていく人たち、あちこちで空き家が目立ち、この村は廃村になるのではと思うくらいです。

では、部落差別がなくなったから運動をやめていくのかと言えばそうではありません。解同にたたかう方針がないからです。

私たちが行った実態調査の分析の結果、部落差別は根強くあります。差別体験は10人のうち6人が体験しています。結婚差別では、七割の人たちが受けています。「同和地区や家柄」を理由に反対された人は15人もいました。長野県連がとり組んでいる長野‐中野結婚差別事件糾弾闘争も、M君だけの問題ではないことが、数字の上からもはっきりとさせられました。

収入に格差

生活実態も、部落差別の現実を浮き彫りにしています。特に生活の軸である収入に、一般地区との露骨な格差が表れました。「一般的サラリーマン家庭」の平均年収が500万円くらいなのに対して、部落の年収は、300万円以下に7割もの人たちが集中しているのです。この「格差」がなぜ生み出されているのか。ここに差別はないのか。

勤めている会社の規模を見ると、ほとんどの人たちが従業員50人以下の中小零細企業で働いています。職種を見ると、建設業や製造業に集中し、いわゆる3K職種にほとんどの人がたずさわっています。教師はわずか1名で、公務員を見ても4人しかいません。つまり、「いいところ」「安定したところ」で働いている人がいないのが部落の現状です。低賃金で、危険と隣り合わせの仕事をしながら、どうにか生きているのが部落の生活です。

また、年配の部落の人は、石川一雄さんの「子守奉公」の経験と同じ経験をしています。差別ゆえに、学校へ行くことよりも食っていくことを優先せざるを得なかったため、文字を知らないまま社会に出ていったのです。字を知らないのですから、たくさん収入を取れるような仕事に就けるわけはありません。子どもが生まれても、その子を進学させる余裕はありません。こうした負の連鎖が現在の生活に受け継がれているのです。差別によって文字を奪われ、職を奪われてきたのです。調査回答者171名中、大卒者がたったの5人しかいないことの理由が、ここにあるのです。

村の人たちの思いを共有 運動の転換をかちとる

これらの事実は、本人の努力や甲斐性で、どうにかなるような問題ではありません。社会の構造が私たちに強制してくる現実であり、これこそが部落差別なのです。「社会外の社会」に置かれる部落の実態を、数字がまざまざと示しているのです。

私たちは、回答してくれた人たちと直接面談をし、こうした悲痛な叫びともいえる声をたくさん聞いてきました。運動が解体された村の状況を見てきました。この経験は、実際に村に入り、声を聞いてみなければわかりません。村の人の息づかいまで伝わってきます。この生活実態調査の目的は、私たち部落民が直接部落差別の現実を肌で感じることではないかと思います。

これまで、独りよがりな運動のあり方から、村の人たちと日常的なコミュニケーションを交わし、村の人たちから学んでいくあり方、またこの人たちの思いを共有していく組織と運動こそが、今の全国連に求められていると思います。「運動の火は消さないでくれ」と8割の人たちが運動団体に期待を寄せています。これからももっと徹底して村に入り、差別とたたかう解放運動を再生させて行きたいと思います。

実態調査は、まだ中間点にきたところです。私たちがまだ入っていない部落はたくさんあります。部落を探し、部落だと特定する作業から入っていきます。これまで知っていた地域に入ってきた日数と時間に比べ、これから入る地域は未知ですから、倍の時間はかかると思いますが、何年かけてもこの実態調査をやり遂げていきます。

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