第21回全国大会 運動方針の基調から 全国連書記長 中田潔(文責は編集部)

(2012年04月25日)

 

部落解放運動が大きな転換点を迎えている

  全国連が創立されて丸20年が過ぎ、21年目のたたかいに入ります。今回、大会を迎えるにあたって私たちは、運動のあり方について様々な角度から議論を進めてきました。全国連の差別糾弾闘争を基軸にした三大闘争路線がはたして正しかったのかどうかも含めて議論を深めてきました。結論的にいって、私たちが20年間たたかってきた三大闘争路線の考え方にはいささかも変わりはありません。むしろ、この三大闘争路線の考え方に導かれて、全国連は小なりといえど、狭山闘争、部落解放運動の最先頭でたたかい続けてこれました。

 しかし、これから10年先、20年先の全国連、あるいは部落解放運動、自分たちが住んでいる村を考えたときに、今、大きな転換点、大きな分岐点にきていると考えなければなりません。

 とくに、部落解放運動をめぐって、本部派を中心にしてどんどん運動から部落大衆が離れていっています。部落解放運動が村の中で大きな影響を与えられなくなってきています。国は、地対協の「意見具申」に始まって、数十年をかけて部落解放運動を根絶やしにする攻撃をかけてきました。「差別糾弾闘争は犯罪行為だから警察をつかって徹底的にとりしまる」「同和対策事業の全廃」ということが決められ、この10年ほどの間に同和対策事業は完全に打ちきられました。このなかで、急速に部落解放運動の影響力がなくなってきています。

 もう一方で、悪質な差別事件もおこっています。昨年、奈良の水平社博物館の前で「在特会」がハンドマイクをつかって公然と「エタ」と叫ぶ事件もおこりました。それから、昨年発覚しましたけれど、司法書士が戸籍をとるのに必要な書類を2万枚も偽造して、そして約1万人の戸籍を不法に入手するという事件です。インターネットの中でもつねに部落の所在地を暴露するような書き込みなどがあふれています。 これらの事件の特徴は、差別をすることをはじめから目的にした差別事件です。これが、いまの差別事件の大きな特徴です。

 こんな状況の中で、部落解放運動が果たさなければならない役割、部落解放運動の必要性はますます高まっていると思います。こういう時代の大きな転換点こそ、本当に部落解放運動の力を発揮して、だんだん薄れていっている部落解放運動への期待、影響力をあらためて全国連が一身にひきうけてつくりなおしていかなければなりません。全国連が全国の部落のきょうだいの先頭にたってたたかい、そして、大きな組織をつくりだしていく必要に迫られています。いまそのぎりぎりの瀬戸際を迎えていると思います。

青年の組織化へ、運動の考え方の転換を!

実際に、自分たちの足元はどんな状況になっているでしょうか? すでに子ども会活動がなくなっていたり、児童館や青少年会館が閉鎖をされている地域もあります。隣保館が一般の公民会にすりかえられてしまって、部落の人たちが集まって、みんなで相談しあって、助け合って暮らしていける場所もどんどん奪われていっています。

また、住宅の家賃も応能応益制度の導入によって、安定した世帯の収入を持っている層は、部落から出て行くという状況があります。高齢化社会と言われますが、高齢化率が荒本では30数パーセントという数字が実態調査で出ています。 団結をしようにも、運動をしようにも、若い人たちがいない、子育ての世代がいない、部落のなかの空洞化という状況が急速に進行してきています。都市部だけでなく農村部の部落でもこういう傾向があると思います。

さらに、いま若い人たちの2人に1人は派遣社員、臨時職員です。いつ首を切られるかわからない、いつ雇い止めになるかわからない厳しい状況です。そのなかで、村の中で青年部を組織したいと思っても、何回家に行っても会えないという状況が起こっています。部落解放運動を生み出していくエネルギーの源は地域です。この地域が、若い人たちがいなくなって、働き手の世代がいなくなり、地域の共同体が成立しないほどばらばらにされている状況ではないかと思います。

格差論を乗り超え

こうした困難ななかで、私たちはこの1年間、青年の組織化に全力をあげます。青年を中心に、もう一度、部落の人たちが自分たちの権利や生活をかけてたたかおう、というたちあがりをつくりだしていくことが今年の第1の目標です。

そのために私たちの運動の考え方、とくに要求闘争の考え方を大きく転換しようということを訴えます。

これまで、私たちが行政とやりあうとき、一般と部落の格差を問題にし、「この格差は差別だ。核を解消するために同和事業をおこなえ!」というのが、基本的な運動の論理でした。じゃ、今の情勢で、同和行政を要求していくときに、そういう格差論が単純に成立するのだろうかといえば、なかなか成立しません。

たとえば、今のこの不景気の時代、村の人たちだけでなく労働者全体の就労状況は大変です。失業率も高いです。たしかに、一般と部落を比べたら数パーセントの違いがあるでしょう。確かにそれは部落ゆえの数パーセントの格差といえなくもありません。これは、差別としてしっかりととらえていかなければなりません。ただ、世の中全体が不景気で失業者があふれているときに、その数パーセントの差をもって「俺たちだけ何とかしろ」という運動に若い人たちは支持や共感をするでしょうか。あるいは、多くの部落大衆はそういう格差を取り上げて、「自分たちだけ何とかしろ」という要求闘争に立ち上がっていくでしょうか? そうはならないと思います。

むしろ、2人に1人の同じ非正規の間柄、あるいは同じ失業の苦しさから、「こんな社会全体がおかしい」と、多くの労働者・民衆の利害と一致したたたかいのなかに自分たちの要求を位置づけてたたかい抜く、ということが今、求められているのではないでしょうか。

かつて、荒本支部は1991年、瀬川選挙をたたかううえで、国保料を滞納している人からの保険証の取り上げに反対する一大運動をおこないました。そのとき荒本の人たちは、「市民みんなの要求の先頭に部落解放運動がたってこそ、初めて部落差別を撤廃させることができるんだ」という立場に立ちきってたたかいました。そして、「国保と健康を守る会」もできて、大きな連帯の輪が広がって選挙闘争にも勝利しました。この考え方、たたかいを私たちはもう一度、つくらなければならないのではないでしょうか。

部落の共同体的団結をよみがえらせよう!

部落解放運動の力というのは、やはり地域です。そこでさまざまな人たちが生活や子供たちのことや年寄りのことなどを、みんなで支えあいながら生きてきたということが解放運動のエネルギーのもとです。この地域がどんどん食いつぶされ、部落の共同体的団結が崩壊しているなかから解放運動はうまれません。したがって、今年1年間でもうひとつ挑戦したいのは、私たち全国連自身の運動の力で、もう一度、しっかりと村の団結をよみがえらせるということです。

子育て、子供たちの教育、お年寄りの介護の問題、あるいはこれだけ不況で生活が厳しくっていますから、生活上のさまざまな問題もあるでしょう。先ほど申し上げたような要求闘争の基本的な考え方にたって、部落の絶対多数の人たちを獲得して、団結を回復していく以外には部落解放運動が大きく発展していくみちはありません。解放運動の大きな分かれ道にあるこのときに、ここに挑戦したいと思います。 実態調査についても、全国連の支部のないところへも拡大していきます。そのことにしっかりとこの1年間やりきっていくということが大事です。

反動政治と対決を

最後に、これからさらに攻撃が吹き荒れてくると思います。大阪では、東大阪市でも「つくる会教科書」を採択するということが起こりました。また、テレビでも大きく取り上げられている「橋下人気」について、僕らはだまされてはならないし、橋下のやり方を許してはいけません。橋下の攻撃の矛先は労働組合や弱い立場にある人ばかりです。たとえば大阪市の清掃事業を民営化するといっています。しかし、民間の清掃労働者はそれだけでは飯が食えない、仕事を掛け持ちしなければ生活できないのが現状です。また、大阪市は3年間で5百億円の予算をカットするといいます。お年寄りや、生活が苦しい人への補助金や援助を打ち切ることで500億円を浮かすのです。とんでもない。

橋下が大阪でやっていることは、今、奈良で、そして全国各地で起こっています。世の中の閉塞感が、差別主義、排外主義の方向に流されようとしているあらわれが、「橋下人気」です。また、そういう世の中の不満や、憤りが「在特会」のような行動を生み出し、インターネットのでの差別的な書き込みに現れるという背景になっています。私たちは、これとしっかりと対決していきます。

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