神戸・西宮勝利判決の意義

(2009年04月21日)

 

部落解放理論センターより、これまでに『部落解放闘争』で発表した論文から今回、住宅家賃値上げ反対闘争に関連して、「神戸・西宮勝利判決の意義」学習コーナーにUPしました。

神戸・西宮勝利判決の意義
            同住連事務局

はじめに

 ついに私たちは神戸2004年3月31日、西宮2004年5月27日において、住宅裁判の勝利判決を勝ち取ることが出来ました。応能応益家賃制度に反対し同住連を結成して6年、血と汗の中でもぎり取った勝利判決です。

第1章 全面勝利した神戸判決

 応能応益制度とそれによる大幅な家賃値上げは、部落差別撤廃の責務を投げ捨てる国と行政による部落差別です。それは、なによりも戦後部落解放運動がかちとってきた最大の大衆的成果を国家の強権をふりかざしてぶっつぶそうとするものです。そして、部落の中に分断を持ち込み、互助的団結さえも破壊しようという攻撃です。また、解同本部派を籠絡し、その力で一挙に部落民の団結と生活を粉々に破壊しようとするものです。私たちはギリギリのところから同住連を結成して立ち上がったのです。
 今回の判決は、こうした国の攻撃に一矢報いる決定的な勝利です。国は大打撃を受けました。国土交通省の役人は「重大な事態。今後の改良住宅の運営に大きな影響を与える」と危機感をあらわにしています。そして、裁判に訟務検事という国の代理人を登場させてきました。いよいよ闘いは国家との真っ向からの勝負となります。望むところです。部落民の力と団結を強め、さらなるたたかいへ、値上げ白紙撤回につきすすんでいきましょう。
 そのためにも今回の勝利がいかなるものなのかを判決文を一つ一つみていき確認しましょう。以下、神戸判決、西宮判決をみていきます。
 第1節 改良住宅と建設省の1・21通達
 判決の内容にはいる前に2点だけおさえておきたいことがあります。
 まず部落の住宅には法律上二つの住宅があります。一つが改良住宅、もう一つが同和むけ公営住宅です。この二つは、建設にいたる経緯や実際の建設の目的はまったく同じものです。入居の経過や、そこで暮らしている住民の実態もまったく同じです。ただ、法そのものの不備や国や行政の都合によって一方は改良住宅、もう一方は同和むけ公営住宅として建設されました。当然、これら二つの住宅はこれまでは同和住宅として同一同様に扱われてきました。また、改良住宅の実態を見ると、その大半は同和住宅です。
 なお、神戸裁判、西宮裁判をたたかった住民の住んでいた住宅はいずれも改良住宅です。この改良住宅の家賃の決定方法などを規定する法律が、住宅地区改良法です。
 次に住宅地区改良法を見ます。住宅地区改良法(以下、住改法とします)は改良住宅の建設や管理、運営方法を規定した法律ですが、29条で管理、運営方法が、29条3項で改良住宅の家賃の決定方法が規定されています。それを見ると「改良住宅の家賃及び敷金の決定及び変更については、改正前の公営住宅法、旧公営住宅法第12条、13条、21条による。」と書かれています。
 ここに明らかなように、改良住宅の家賃は新しい公営住宅法ではなく旧公営住宅法で決めろといっています。このことは決定的です。新公営住宅法の最大の目玉は、応能応益家賃制度を公営住宅に取り入れたことです。住宅地区改良法は家賃は新法ではなく旧公営住宅法によると明文でしめし、応能応益制度を排除しています。
 応能応益家賃制度を改良住宅に適用するのは明らかに違法です。しかし、この違法を無理でも通そうとしたのが、建設省の1・21通達です。1997年1月21日、建設省は以下の文書を地方公共団体に通達したのです。
   改良住宅の家賃については、公営住宅法の家賃との均衡上必要がある場合等には、住宅地区改良法の規定の範囲内において、公営住宅の家賃と同様に入居者の収入及び当該改良住宅の立地条件、規模、建設時からの経過年数その他の事項に応じた額を設定することが出来る。
 ここで言っている「入居者の収入、立地条件……に応じた額」というのが、まさに「応能応益制度」です。国土交通省は違法を承知で、「改良住宅にも応能応益制度で家賃を設定できる」という通知を全国の自治体に出したのです。そして、この一片の紙切れによって、各地で改良住宅に応能応益制度が導入されていったのです。
 この通知は、「何としても同和事業をうちきり家賃を値上げする、部落民に法律など関係ない」-こうした国の差別的な意志に貫かれた違法なごり押しです。こんなことで部落が無茶苦茶にされていくなど絶対に許すことができません。
 国こそ私たちの真の敵です。 

第2節 改良住宅に応能応益適用は違法
 神戸判決を具体的にみていきましょう。それを通じて勝利の武器を磨いていきましょう。 
 第1項 住宅地区改良法そのものについて
 判決文は次のように言っています。
   公住法改正以前において、応能応益制度は、改良住宅だけでなく公営住宅においても導入されておらず公住法改正にともなう新公住法16条の新設によって、公営住宅に応能応益制度の導入が可能となった。そして、住改法29条3項が、旧公住法12条及び13条を準用しつつ、新公住法16条の適用を排除したのは、改良住宅の家賃の算定方式としては、公営住宅と異なり、応能応益制度を採用してはならない旨を定めたものと解するのが文理解釈としては最も自然であり、法律や条例の規定に要請される明確性の観点からもそのように解される
 応能応益家賃は、これまでの家賃制度とは全く異質なものです。判決は、住宅地区改良法が応能応益制を「排除している」と明確に判断しました。

  第2項 新公住法と住改法を比較検討
 では、なぜ住改法は、応能応益制度を排除したのか、それを新公住法と住改法を比較し、検討していきます。
 まず、新公営住宅法の規定内容、入居資格、建設費に係る国の補助制度を、神戸判決文より見ていきます。
  第一に、新公住法の規定内容は、
  1 国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、
  2 これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、
 3 国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。
と、あります。ここでのポイントは住宅困窮者が対象だということです。
   第二に、入居資格は、
  入居資格は、原則として政令で定める一定の収入額 以下の者にのみ限定している。
  第三に、国の補助は、
  財政負担は公営住宅の建設にあたって国からの補助は 建設費用の2分の1の金額である。

 次に、住改法について、それらを見ます。
  第一に、規定内容は、
   不良住宅が密集する地区の改良事業に関し、事業計画、改良地区の整備、改良住宅の建設その他必要な事項について規定することにより、当該地区の環境の整備改善を図り、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅の集団的建設を促進し、もって公共の福祉に寄与することを目的とする。
   同法に基づく住宅地区改良事業は、不良住宅が密集して、保安、衛生等に関し、危険又は有害な状況にある一団地で政令で定める基準に該当するものとして国土交通大臣によって指定された改良地区をその対象とするものとされており(住改法4条)、具体的には、不良住宅が密集していて、ひとたび火災が発生すると延焼の危険が極めて高く、また、人口が密集しているために伝染病が蔓延する危険も高い地域を改良地区として指定することを想定しており(実際、昭和25年の調査によれば、番町地区の人口密度が5万3797人であったのに対し、神戸市全体での人口密度1922人、戦災に遭う前の昭和15年の東京3429人に比して異常に高く、延焼や伝染病の蔓延等の危険は高かったものということができる。)、改良住宅は、かかる公益的な性格を有する住宅地区改良事業に基づいて建設されるのであって、公営住宅とはその目的を明らかに異にするものである。
 公営住宅が「住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃」の住宅を建設することを目的として建設されたのに対し、改良住宅は、不良住宅の密集する劣悪な住環境を改善し、人間らしい暮らしを保証するために建設された住宅です。「不良住宅の密集する劣悪な住環境」、これこそ部落差別によって引き起こされたものです。それを国の責任において解決することを目指して住改法は制定され、改良住宅が建設されたのです。一般の公営住宅と改良住宅は全く別個のものです。住改法が応能応益や制度を排除した第一の理由がここにあります。
 
  第二に、改良住宅の入居資格は、
   不良住宅の除去や改良地区内の土地の整備のために一旦住宅を失った者(住宅喪失者)については、改良地区内の居住者の多くが低額所得者であったこともあって、その多くが住宅に困窮することが予想されることから、住改法は、施工者に対して、住宅喪失者で住宅に困窮すると認められる世帯の数に相当する戸数の住宅を改良住宅として当該改良地区内に建設することを義務づけるとともに、改良地区内の指定の日から引き続き改良地区内に居住していた住宅喪失者で、改良住宅への入居を希望し、かつ住宅に困窮すると認められる者を改良住宅に入居させるよう義務づけているのであって、住宅喪失者は、その所得の多寡に関わらず、改良住宅への優先入居権が認められていることにも照らせば、改良住宅を、住宅喪失者が従前居住していた住居の代替住居として位置づけているものと解される。
 ここでのポイントは改良住宅が、地区内を改善するために住宅を失った住民のための代替住宅であり、所得の多寡にかかわらず優先的に入居権が認められていたと明言している点です。その上にたって、判決文はさらに次のように述べています。
   かかる改良住宅の代替的住居としての性格からしても、その家賃を入居者の申告に基づいて決定するという応能応益家賃制度は予定されておらず、同制度に基づいて高額所得者とされる入居者が負う明渡義務や事業主体の明渡請求措置に関する規定の準用を排除しているのも、住宅喪失者については収入の多寡にかかわらず、同一の家賃を負担して改良住宅に居住する権利を保障しようとした趣旨であると解される。

  第三に、国の補助を見ます。
   住宅地区改良事業に要する費用のうち、除去のための取得費用も含めた不良住宅の除去費用の2分の1並びに建設のために必要な土地の取得費用及び土地造成費用を含む改良住宅の建設費用の3分の2をそれぞれ上限として予算の範囲内で補助するものとして、施工者である地方公共団体の財政的な負担を軽減しており、かかる規定も、住宅地区改良事業の公益的性格を重視したことに基づくものであると解される。
   だとすれば、改良住宅に応能応益制度を導入し、入居者のうち高額所得者から高額の家賃を受領することにより、施工者の財政負担の軽減を図る必要性を、公営住宅の場合と同列に考慮するのは相当でない。
 公営住宅建設に係る国の補助が2分の1であるのに対して改良住宅は3分の2と、より大きくなっています。これは改良住宅がより公益的性格の強いものであるからだと判決文は言っています。改良住宅、同和住宅が単なる貧困対策ではなく、部落差別の解消を目的とした住宅であることに規定されているということです。だから、国からの補助が比較的大きなものとなったのです。ここに、「公営住宅の場合と同列に」応能応益制度を導入することは誤っていると、判決は断言しました。
 さらに、公住法の改正の経緯について検討しています。
   住改法の改正によって、改良住宅の家賃にも応能応益制度が導入されることを想定していなかったと推認される。

  以上から、判決文は、改良住宅に応能応益制度を導入することの誤りを①住宅の目的、②入居資格、③建設の経緯、④立法府の意志の4点にわたって明らかにしています。 
 改良住宅と公営住宅は、その趣旨と目的、入居資格、国の補助を全く異にするものであり、応能応益制度を仮に公営住宅に導入できたとしても、そのことをもって改良住宅に適用することはできないことが、ここで明らかにされています。だからこそ、立法府も改良住宅への応能応益導入は想定外のことであった、としているのです。
 そのうえで裁判所は、神戸市の主張に立ちいって判断しています。

 第3項 神戸市の主張についての裁判所の判断
 1 法律は限度額家賃制度いがいを認めていない
 神戸市は次のように言って改良住宅に応能応益家賃を導入してきました。
  ①限度額家賃の範囲内であればどのような家賃にしてもよいとする自由裁量が神戸市にはある。
  ②住改法29条が、応能応益制度を排除した意味は、家賃額の上限を民間並み近傍同種の家賃としてはならないというだけのこと、家賃額の上限=最高家賃額を限度家賃額にしろと言っている、そういう意味内容だ。
 神戸市は家賃の上限を限度額とするということさえ守ったら、家賃制度や家賃体系を180度転換するようなことをやってもいい、何をやってもいいんだという滅茶苦茶な暴論を言ってきました。
 そうした神戸市の主張に対して、判決文はつぎのように判断しました。
   住改法が応能応益制度を排除した趣旨を、神戸市のいうように解するのであれば、そもそも公住法改正を行わなくとも、公営住宅において応能応益家賃制度を導入することが可能であったと解することになるが、公住法改正以前においては、応能応益家賃制度を導入した公営住宅は存在せず、公住法改正後初めて同制度が導入されたものであり、被告神戸市の主張する解釈はかかる経緯にそぐわないものである。応能応益家賃制度が、収入に基づいて家賃を定めるという点で、建築費に基づいて家賃を定める法定限度額方式とは全く異質の制度であることからすれば、法律や条例に要請される明確性の観点からしても、これを明確に規定することが求められるというべきであり、被告神戸市の主張する解釈を立法府が想定していたのであれば、新公住法16条1項の準用を排除するのではなく、その準用を認めた上で家賃の上限が旧公住法12条1項所定の限度額家賃であることを規定したはずであると解される。
 要するに、裁判所は次の3つの点を示し、神戸市の暴論をしりぞけました。
 ひとつは、神戸市のいうようなことがまかりとおるのであれば、国会論議までやって公営住宅法を変える必要などなかったはず、これまでの法律で応能応益家賃にしていたはずである。しかし、実際には、旧公営住宅法で応能応益家賃にしていたところはなかった。それは、旧法の下では応能応益家賃にするのは無理があったからだ、という点です。
 もうひとつは、旧公住法と応能応益家賃の間には、質的な変化があった。限度額家賃と応能応益家賃はまったく異質な家賃制度である。だから、そうした家賃を導入するには、あいまいなことでは駄目だ、そもそも法律や条文は明確なものでなければならない、全く異質な制度を導入する際にはなおさらそうだ、と言っています。
 3点めに、そのように法律や条文には明確性が要請されていることからしても、もし、限度額家賃内で応能応益家賃を導入してもいいというのであれば、法律でそのように規定しているはずであると言っています。
 以上の3点をもって、裁判所は、神戸市の暴論を粉砕しました。さらに、裁判所は次のようにも言っています。
   旧公住法は、事業主体が、限度額家賃を上限として家賃を定めることを規定しつつ(旧公住法12条1項)、別の方法によって家賃を定めることもできると規定していたが(旧公住法13条1項)、これに対し、新公住法は、応能応益家賃制度(新公住法16条)以外の方法によって家賃を算定することを認める旨の規定を設けていない。
   そのため、住改法29条3項が、旧公住法12条及び13条を準用することとし、新公住法16条の準用を排除したのは、同条を準用すれば、改良住宅の家賃の算定方式を応能応益家賃制度に限定しなければならないことになるため、同条の準用を排除して、限度額家賃の範囲内で、改良住宅の家賃の算定方式を事業主体が自由に定めうる余地を残したとの解釈も考え得る。
   しかしながら、かかる解釈も、文理解釈としては不自然さを否定できず、上記の法律や条例に要請される明確性の観点から相当であるとはいえない。むしろ、そのような解釈を採るのであれば、上記のように規定しているはずである。
 要するに、神戸市は「住宅地区改良法が新公営住宅法16条を採用すると事業主体は応能応益家賃制度しかとれなくなり、裁量の幅がせまくなるから、応能応益をやってもいいし、定額家賃にしてもいいように、あえて旧法を採用したまでである」と言うが、それも法の解釈としては不自然だ、もしそうだったら、法律にそのように規定しているはずである、と言っています。

 2 通達で法律を変更することは認められない
 その上で、神戸市は「限度額家賃内であれば、改良住宅も応能応益家賃にしてもいい」と書いてある、国の1・21通達を出し、だから値上げはしてもいいのだと言ってきました。
 これに対して裁判所は次のような判断を示しました。
   住改法29条3項が、改良住宅の家賃に応能応益家賃制度を導入することを許さないものと規定していると解するのが相当である、通達は行政機関内部の法律解釈の指針にすぎず、それ自体に法律の規定内容の変更をもたらすような効力は認められないことからして、同通達の存在をもってしても、被告神戸市が主張する解釈を採用する根拠とはなりえない。
 「通達に法律の規定内容の変更をもたらすような効力は認められない」。司法ははっきりと建設省1・21通達を否定し、国と行政が法律を無視し暴走することに断を下しました。これが国土交通省に大打撃を与えました。
 以上のことをもって、裁判所は、「被告神戸市の主張する解釈は、独自のものであって、採用できない」と、神戸市の主張のすべてを退けました。
 そうして、以上から、住宅地区改良法は応能応益制度を導入することを許さないことを規定したものであると断定しました。以下、引用します。
   まとめ 以上検討したとおり、住改法29条3項の文理、公営住宅と改良住宅の設置目的、新公住法と住改法の規定内容の相違、公住法改正に至る経緯を総合すれば、住改法29条3項が新公住法16条の準用を排除したのは、改良住宅に応能応益家賃制度を導入することを許さない旨を定めたものと解するのが相当である。

第4項 地域の実情を問わず応能応益は認められない
 以上、住宅地区改良法の解釈と、神戸市の主張に対する判断を見ました。次に、地域の実情に応じて応能応益制度を導入することが許されるのかどうか、その判断を見ていきます。裁判所は、できないと判断しました。以下、引用します。
   改良住宅については、不良住宅の密集状態を解消して、火災や伝染病の蔓延等を防止しようとする公益的な性格を持つ住宅地区改良事業の一環として施行されたものであり、国は、改良地区の指定を行うとともに、公営住宅に比して多額の補助金を交付するなどして、事業の推進に大きく関与していたものであり、事業の推進に伴って住宅喪失者が発生することは不可避であるから、そのような住宅喪失者を保護すべく、応能応益家賃制度の導入を許さない旨定めたものと解される。
   そして、住宅地区改良事業の推進に伴う住宅喪失者の発生は、地域を問わず生じるものであるから、住改法29条3項が地域の実情に応じて、応能応益家賃制度を導人することを認めている趣旨であるとは解しがたい。
   よって、住改法29条3項は、地域の実情に応じて、応能応益家賃制度を導入することは認めてはいないと解されるから、改良住宅に応能応益家賃制度を導入することを認める市住条例25条及び市住規則26条並びにこれらに基づいて本件各改良住宅に本件応能応益家賃制度を導入したことは、いずれも住改法29条3項に反し、違法である。
 このように、改良住宅法の趣旨は、地域によって変化があるような問題ではない。だから地域の実情に応じて応能応益制度を導入したりしなかったりなどは許されないのだと、はっきりと判断しています。さらに、市条例が定めていることを理由にしても、住改法29条3項違反であることに変わりはなく、違法な条例であり無効と判断しました。

 第5項 供託は有効
  判決文から
   原告らは、賃料支払債務について遅滞の責を負わず、したがって、賃料債務については遅延損害金は発生しないものと認められ、原告らは、供託したものと認められるから、神戸市の未払賃料債権は、供託によりいずれも消滅したものと認められる。
  よって、被告神戸市の原告らに対する未払賃料請求は、いずれも理由がない。
 旧家賃を「供託しているから神戸市の債権は消滅した」と判決は言っています。供託は有効だということです。
 以上のように、神戸裁判では住民側が全面勝利を勝ち取りました。
 次に西宮判決をみてみます。

第2章 西宮判決について

 第1項 芦原地区の住宅と今回の値上げのやり方
 まず、住宅について見ます。今回の西宮裁判をたたかった住民の暮らす住宅は、震災復興住宅と改良住宅の2種類の住宅があります。もちろん、すべて西宮市芦原地区にある同和住宅です。住民=原告総数およそ70名のうち、震災復興住宅は一人で、残りはすべて改良住宅です。震災復興住宅とは、その目的や趣旨、性格は改良住宅とまったく同じもので、住宅地区改良法が適用されています。
 次に、西宮市の今回の家賃値上げの手法について簡単に述べます。まず震災復興住宅ですが、これに対しては神戸と全く同じやり方で、「限度額以内での応能応益家賃制度を適用」し、およそ数倍もの値上げをしてきました。そして改良住宅にたいしては、法律の上では旧法に基づいていきなり4倍の値上げをし、その上で12段階の減免をしたというかたちをとってきました。もちろん、住民説明は、震災復興住宅の住民に対しても改良住宅の住民に対しても「公営住宅法が変わった。市の裁量はなくなった。だから、応能応益家賃に変えて値上げをする」と説明してきました。
 このことによって判決文は、やや複雑になっていますが、一つ一つみていきたいと思います。
 
 第2項 震災復興住宅に応能応益を導入してはならない
 最初に、震災復興住宅への応能応益制度に基づく家賃値上げに対する裁判所の判断を見ます。 
  住民は、今回の値上げは住宅地区改良法に違反していると主張しました。それに対して西宮市は、限度額内であれば、いかなる家賃体系にしようと市の自由だと言ってきました。裁判所は次のように判断しました。
   改良住宅において、法定限度額の範囲内であっても、応能応益家賃制度を採用することを地方公共団体の合理的裁量の範囲から除外した、少なくとも応能応益家賃制度の採用が地方公共団体の合理的裁量の範囲内であるとの考えに消極的態度を示した趣旨と解するのが相当である。
   しかも、入居者の収入に応じて家賃を定める応能応益家賃制度は、建築費等に基づいて家賃を定める法定限度額方式とは全く異なる家賃決定方式であって、改良住宅について、一義的かつ明白に、地方公共団体の合理的裁量の範囲と認められる家賃決定方式とはいえない。また、改良住宅の設置目的や入居資格等を考慮すると、応能応益家賃制度は、従前の法定限度額方式に対し、全く別個の方式であり、かつ、高額所得者のみ不利益な扱いを受けることになる応能応益家賃制度を新規に採用するには、明確な法律上の規定・根拠を要すると解すべきである(なお、公住法改正以前においては、公住法においても、住改法においても、応能応益家賃制度は採用されていなかったことが認められる。)。
 裁判所は、ここで重要なことを言ってます。法定限度額家賃制度と応能応益家賃制度は全く別のものであり、新規にこの応能応益家賃制度採用するためには「明確な法律上の規定・根拠を要する」と、明快に判断しています。
 次に、住改法が、応能応益制度を排除した理由を①建設目的、②入居資格、③国の補助の3点から考察し、それは合理的であると判断しています。以下、その要旨を紹介します。
① 公営住宅と改良住宅は、その建設目的が全く違うこと
 公営住宅は住宅に困窮する低所得者に低廉な家賃で住宅を賃貸し、生活の安定をはかることであるのに対して、改良住宅は不良住宅が密集する地区の整備改善をはかり、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅の集団的建設を促進し、公共の福祉に寄与することを目的とするもので、そもそも公営住宅と改良住宅は設置目的が明らかに異なる。
② 公営住宅と改良住宅は、入居資格が全く違うこと
 公営住宅の入居資格は一定の収入額以下の者にのみ限定しており、入居後も収入申告を義務づけているのに対して、改良住宅の入居資格は、改良事業によって住宅を失った人には、収入額には無関係に入居する権利が認められている。
③国の補助も公住法の2分の1ではなく、3分の2であること
 これら、公営住宅と改良住宅の違いを考察し、判決文は次のように結論づけています。
   このように、公営住宅と改良住宅については、種々性質や取り扱いの異なる点があり、その差が家賃決定方式の相違に反映したと言える。
   したがって、西宮市が新条例で改良住宅に応能応益家賃制度を採用したことは法律により委任された地方公共団体の合理的な裁量の範囲を逸脱した違法・無効な措置というべきである(当該住宅につき決定された家賃が法定限度額以下の家賃であることは、上記結論に影響を及ぼさない。)。
 西宮判決は神戸判決に続き、住改法は応能応益家賃制度の導入を否定していると判断し、西宮市が応能応益制度を採用したことを「法律により委任された地方公共団体の合理的裁量を逸脱している」と明快な判断を示し、この値上げを無効と断定しました。

 第3項 旧法を使った応能応益のような家賃も認めない
 次に、改良住宅に旧法を使っての応能応益家賃にすることについてはどうか、についての裁判所の判断を見ます。
 先にも述べましたが、西宮市は、一気に4倍~9倍もの値上げをし、その上で減免制度を活用すれば、旧法でも応能応益家賃にできると言ってきました。そして、次のような理由をあげて、そうした値上げは法律で認められていると、言ってきました。
 第一に、「近隣の改良住宅の家賃とのバランスをはかるための値上げは、法律(=旧法)で認められている。近隣の改良住宅は、ほとんどすべて4万4900円の家賃だ。だから、本件改良住宅の家賃も、4万4900にした。合理的であり、かつ裁量の範囲内であり合法だ」と言ってきました。これに対して、裁判所は次のように言って、西宮市の主張を退けました。
   弁論の全趣旨によれば、上記本件以外の改良住宅の最高家賃は、法定限度額内の応能応益家賃制度を採用して決定されたと認められるところ、上記判断のとおり、本件以外の改良住宅についても、応能応益家賃制度を採用することは、違法・無効であると解され、また、上記最高家賃額が応能応益家賃制度を採用せずに決定される家賃額より低額であることを認めるに足りる証拠はないから、上記最高家賃額との均衡を考慮して本件家賃改定額を決定することは許されないというべきである。
  要するに、西宮市が、家賃の均衡をはかろうとしている近隣の改良住宅の家賃は、「限度額内で応能応益制度を採用した」違法で無効な家賃だ、こんな違法な家賃と比較して家賃を決定することなど「許されない」と断言しています。さらに、公営住宅家賃との比較、均衡を理由に、改良住宅の家賃を上げることを否定し、次のような判断を示しました。
  なお、住改法は、公営住宅との建設目的の差を前提としつつ、賃料の決定及び変更に関して旧公住法の規定を準用しており、改良住宅の入居者に低所者が多いという事情については、国の補助等によって最高家賃限度額が低く抑えられる(住改法27条、旧公住法12条1項)ことによって直接に考慮していること、原告らの主張する「建設原価の差」については、改良住宅の家賃を第2種公営住宅より一律低額に設定しなければならない根拠とはいえないことからすれば、一般公営住宅の家賃額と一定の程度において均衡を図ることを考慮すること自体が一切許されないとまではいえないが、基本的には、改良住宅間の均衡を第一次的に考えるべきである。
 西宮裁判でも、「公営住宅と比較して必要がある場合は改良住宅にも応能応益家賃を適用できる」とした国の1・21通達は、否定されました。国は大打撃を受けています。

 第二に、西宮市は「物価の上昇にともなって今回の値上げも行った。それは旧法で認められている。だから今回の値上げも合法だ。」と、いってきました。しかし、諸物価の値上げは1・4倍でしかない。それなのに家賃は4倍から9倍です。これに対して裁判所は、次のように判断を示しました。
   本件家賃改定による家賃の増額割合が、物価の変動と比べて相当高額となったのは、他の改良住宅の家賃額との整合性を図って設定したものと認められ、本件家賃改定における家賃額決定の最大の理由は、本件以外の改良住宅の最高家賃が4万4900円と決定されたことであると認められる
 要するに、裁判所は、4倍~9倍という今回の家賃値上げは物価の変動に比べて明らかに大幅な増額であることを認めた上で、「西宮市は、今回の値上げを物価の上昇を理由にあげているが、市が言わんとする本当の理由は近隣の住宅との均衡なのだ」と判断しています。もちろん、今回については、近隣の住宅との均衡という理由についても、前述のとおり「違法な家賃と比較して値上げすることは許されない」と言っています。
 その上で、このように実際の物価の変動と比べて著しく高額となった今回の値上げについて「認められない」と判断をしました。こうして、「値上げは合法だ」という西宮市の主張はすべて否定され、退けられました。

 第3項 供託について
 神戸判決に続き、西宮判決でも供託は有効との判断が示されました。引用します。
  各供託は有効であり、原告らは、未払家賃等につき遅滞の責を負わない

おわりに

 同住連は住宅闘争をたたかって6年になります。その中でつかみ取ってきたものと今後のたたかいの方向について簡単に述べます。
 第一に、住居は、人間の命と尊厳にとって欠くべからざるものであり、人間の生活や人生にとって、その基盤をなすものです。だから、住宅闘争は、私たちの生活と尊厳の回復にとって本当に大切なたたかいである、ということです。住宅は教育や仕事、健康問題に深い関わりをもっています。結婚や出産、育児など一人の人間の人生を大きく規定するものです。目も覆う劣悪な住居で、人はその誇りと尊厳を維持することはできません。戦後の部落解放運動の中で住宅要求闘争がまっさきにとりくまれたことを考えても、それは言えます。同和住宅は「長年、差別と劣悪な住環境を強いられ、人権を侵害されてきた被差別部落民の人間性回復の基盤形成をなし、教育、雇用、結婚、社会参加などすべての面での差別からの解放の出発点となった。改良住宅の目的は、地域の環境改善をとおして部落差別を撤廃することにある。」(「意見書」早川和男)国と行政は、この住宅に手をつけてきたのです。部落解放運動の根拠地とも言うべきものを、根こそぎ剥奪しようというのです。絶対に認めることはできません。
 第二に、応能応益家賃による今回の家賃値上げが、部落民の生活をメチャクチャに破壊し、部落民の団結、地域の団結を、その芽さえをもつぶそうとする、国と行政による部落民への迫害であり差別である、ということです。
 部落は、差別の結果きわめて劣悪な環境を強制され部落に住むこと自身が差別の対象とされるものでありながら、部落民自身の長い苦闘の末、生活を守り、解放をめざす部落民の互助的団結の拠点へとうち固められてきました。多くの部落民が、差別から逃れようと、部落から一度は離れたものの、結局は差別に苦しめられ、再び部落に戻ってくるという現実があります。この事実は、それを如実に示しています。収入によって家賃をバラバラにし、最大10倍いじょうの値上げを強制する今回の値上げは、こうした、歴史的に形成されてきた「部落の団結の萌芽」というべきものさえも、許さない攻撃です。
 また、同和住宅の建設は、戦後解放運動の最大の成果と言われていますが、今回の値上げはこれを転覆しようとするものです。「安い家賃が差別を生んでいる」「部落民の自立を促進するために一般並みの家賃にする」これは、今回の値上げの時に、国や行政が言ってきたことです。これまでの「差別はしてはならない」「国には差別の責任がある」という考え方やあり方を180度転換し、戦前のような部落支配をやるというものです。こんな攻撃を許して、私たちの生活も未来もありません。
 第三に、だからこそ、このたたかいを、差別糾弾闘争として闘いぬいていこうということです。これこそが、勝利の道だということです。
 私たちの、最大にして、唯一の武器は、団結です。団結があればこそ、差別を打ち砕き、生きていくことができます。団結、それは何よりも気持ちをひとつにしてたたかうことではないでしょうか。差別への怒り、悔しさを、わかりあえる仲間の存在、「絶対に差別を許さない、仲間が生活や差別に苦しんでいるのを絶対に見殺しにしない、なんとしてもムラの生活を守りぬく」と、心をひとつにしたたたかいが、どんなに厳しい道をも越えていく力と勇気をあたえてくれるのではないでしょうか。この6年間のたたかいで、同住連が手にしたものこそ、この団結だ、と言えます。この団結こそが、神戸判決、西宮判決をかちとった力です。
 このたたかいを、さらに激しい、国や行政に対する糾弾闘争とし、その中で、今ある団結をもっともっと力強い大きな団結にうち鍛え、みんなで新たなたたかいにふみだしていきましょう。私たちは必ず勝利します。
(どうじゅうれんじむきょく)

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